研究概要 |
オオムギの正常系統と重力に反応しない突然変異系統を用いて,サイトカイニンとアンチサイトカイニンの分げつ発生に対する効果を調べ,前者は分げつ発生を促進し,後者は分げつ発生を抑制することを発見した.アンチサイトカイニンが無傷の植物で作用した最初の例である. また,イネの正常系統と重力に正常に反応しない遺伝子を持つ系統を用いて,乾物生産における重力反応の役割について研究し,重力反応は作物が定位反応を経由して乾物生産に大きな役割を果たしていることを明らかにした.とくに,光合成器官,生殖器官の分布に著しい差が認められ,これらの群落内における分布に重力反応が大きな役割を持っていることがわかった.また,これらの両系統を比較して,植物に屈性反応以外に重力の関与する生長反応があることを示唆する結果が,植物を逆さに位置する実験を通して明らかにされ,これについてはさらに詳細に研究する. 重力に反応しないエンドウの突然変異種(ageotropum)と正常種のアラスカエンドウを用いて根の水分屈性と重力屈性の関係を解析し、正常種では重力屈性が干渉して水分屈性をマスクしていることを示した。この場合正常種も,クリノスタット上で重力屈性反応を抑えると突然変異種の根と同程度の水分屈性を示すようになることから、正常種が水分屈性を発現しにくいのはやはり重力反応との競合のためであることが明らかになった。したがって微小重力の宇宙環境では,植物の根は水分勾配に強く反応すると考えられる. また,異なる水環境に適応したと考えられるコムギ12品種を用いて根の水分勾配に対する感受性を比較した結果,水分屈性に顕著な品種間差異を見出した.この場合の品種間差異は,重力感受性とは独立したものであることが明らかになり,水分屈性による水環境への植物の適応が示唆された.これらの結果は,さらに多くの植物種について水分屈性発現能力を比較することによってその生態的意義を明らかにするとともに,根による水刺激の感受機構を明らかにする端緒となる.
|