今年度の研究では、とくに根の活性の維持と密接な関係を持つ窒素栄養との関連に着目して、^<13>Cで標識した同化炭素の体内での流れと、エイジ別に分けた根の呼吸消費の様相を定量的に把握する目的で行ない、以下の点を明かにした。 1.生殖生長期の前期にあたる幼穂形成期では、窒素欠乏により上位根への光合成同化炭素の分配の減少が顕著であったが、いっぽう生殖生長期の後期にあたる乳熟期では、窒素欠乏により上位根よりも中・下位根での光合成同化炭素の分配の減少が顕著であった。 2.根の呼吸に用いられる新規固定炭素の割合(RSA)は、窒素欠乏処理によってとくに中・下位根でのRSAの低下が顕著であり、呼吸基質として新規固定炭素よりも貯蔵炭素に依存する割合が高くなると推察された。出穂期、乳熟期でもこれと同様の傾向が認められた。 3.根への同化炭素の分配と呼吸によって放出される炭素のRSAの、窒素欠乏への応答を比較すると、生育時期によりまた根のエイジによって特徴的に異なることが明かとなった。すなわち幼穂形成期の中・下位根では窒素欠乏処理によって同化炭素の分配の減少が比較的少ないにもかかわらず、吸呼のRSAは顕著に低下した。しかし乳熟期の中・下位根では、上位根と同様に窒素欠乏処理により同化炭素の分配と呼吸中のRSAがともに減少した。 こられのことから生殖生長期においては、時期によりまた窒素栄養条件により、水稲の地上部から根への新規固定炭素の分配とその呼吸基質としての利用率が、ダイナミックに変化することが定量的に示された。
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