作物の塩害回避を図る上では、耐塩性に係わる具体的形質を明確にし、育種的、栽培的手法によって人為的に強化することが重要である。相対的に強い耐塩性を示すイネ品種では、茎葉へのNa^+の吸収移行程度が小さいが、その理由となる具体的、構造的形質は明確になっていない。本研究では、1本の根に塩溶液を加圧した場合のイオン分離排除の機作と構造的形質との関係、およびその機能を簡便に評価する方法について検討した。 その結果、供給圧力、培養液温度、pH、溶存気体量、イオン組成の違い、代謝阻害剤等がイオン排除に及ぼす影響の解析から、塩分ストレス下において働く根のNa^+分離排除システムが、蒸散による木部負圧を駆動力とし逆浸透現象を原理とするイオン排除機能であることが一層強く示唆された。そして、出液の採取方法を変えてイオン流入の障壁部位を調査した結果からは、外皮および内皮部分の細胞層が逆浸透現象の膜部分として機能していることが推定された。 また、イネ10品種、オオムギ4品種、トウモロコシ、キビ、ジュズダマ、シバおよびオヒシバの根を用いた測定からは、Na^+排除率に植物間差異、品種間差異を認めた。また、イネとオオムギの根の横断面内部形態の光学顕微鏡観察の比較からは、Na^+排除率にセルロース含量の差異が関与していることが推定され、イネについては、低濃度NaCl前処理や珪酸処理によってイオン排除機能が高まり、セルロース含量あるいはリグニン含量が増加していることを認めた。 さらに、根のイオン分離排除機能を簡便に評価する方法として、塩溶液中で根の応力弛緩曲線を測定することが、有意義であることを明らかにした。
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