本研究の目的は、我々がPXP-18と命名し、ペルオキシソームのアシル-CoA酸化酵素(ACO)に対する失活抑制活性をもつことを見出した、酵母の16kDa蛋白質の作用機構とその生理的役割を明らかにすることである。ペルオキシソームの内部が常に強い酸素ストレスに曝されていること、このオルガネラへ輸送される蛋白質も細胞質hsp70族蛋白質の関与によって一時的な変性状態を経ることから、ペルオキシソームにも分子シャペロン様蛋白質が存在しているはずであるのに、未だにその報告は一例もない。PXP-18の性状を調べて以下の成果を得た。 1)酵母Candida tropicalisの細胞内で発現されるPXP-18の75%以上がペルオキシソームに存在し、その95%以上がこのオルガネラの可溶化後に抗体と反応することを見出して、これがマトリックスに局在することを示した。免疫電子顕微鏡法によってこの結論を確認した。 2)生理的なストレス温度に近い48度でACOは徐々に失活する。PXP-18はこの失活をほぼ完全に且つ特異的に抑制した。円偏光二色性の測定によれば、70度でのACOの変性は速やかで非可逆的であるが、PXP-18の変性は僅かでまた可逆的であった。PXP-18と共に70度で加温するとACOの一部はPXP-18と等モル複合体を形成し、一部は可溶性の状態で存在した。常温では等モル複合体からの可溶性ACOの解離が観察された。可溶性の部分は二次構造的にも比活性の上からも無処理のACOと殆ど区別がつかなかった。またPXP-18は、ペルオキシソーム局在性の尿酸酸化酵素の66度での失活、またはACOの2M尿素による失活を、共に有意に且つ特異的に抑制、または回復させた。
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