本研究の目的は、我々がペルオキシソームのアシル-CoA酸化酵素(ACO)に対する失活抑制活性を見出した、酵母Candida tropicalisの低分子量蛋白質(PXP-18)の生理的役割を明らかにすることである。ペルオキシソーム内部が強い酸化ストレスを受け、このオルガネラへの蛋白質輸送に細胞質性hsp70族蛋白質が関与することを考えれば、ペルオキシソームにも分子シャペロン様蛋白質が存在している筈である。しかし未だにその報告は一例もない。これに関連する以下の成果を得た。 1)ACOを70度に置くと速やかに且つ不可逆的に変性するが、PXP-18の共存下ではこれと等モル複合体を形成し冷却後にACO活性を回復する。この複合体を単離し懸濁して室温に置き、経時的に遠心分離すると、上清への正常ACOの遊離が確認された。これはACOとPXP-18が抗原抗体複合体のような規則的な構造をとって、ACOの不可逆的変性を抑制することを示唆する。PXP-18分子には対称性がないので、抗体のような2価性をもつとすば2量体となっている筈である。等モル複合体形成条件で、温度と時間に依存するPXP-18の2量体形成が観察された。 2)PXP、18の動物ホモログである.SCP2は新奇なチオラーゼとの融合蛋白質としても発現する。我々が線虫Caenorhabditis elegansから得た新奇チオラーゼのホモログにはPXP-18/SCP2部分がコードされていなかった。下等生物では単独にコードされている蛋白質が、進化の過程で遺伝子レベルで融合したことになる。チオラーゼはβ酸化複合酵素系の成員であるので、変性蛋白質の分解に関わるストレス蛋白質であるユビキチンがリボソーム蛋白質と遺伝子レベルで融合して粒子形成に寄与している例を想起させる。
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