インスリン様成長因子-I(IGF-I)は、血漿中の濃度がよく応答するホルモンである。また、このホルモンは、血漿中で特異的な結合タンパク質(複数が知られている;IGFBP)と結合して存在しており、このIGFBPの血漿中の濃度も、食餌条件によく応答して変化する。この濃度変化によく対応して、IGF-IやIGFBPの肝臓でのmRNA量が変化することから、mRNAの合成速度を調べたところ、IGF-Iについては、転写速度の変化よりもmRNAの安定性が主因となってmRNA量が変化するのに対して、IGFBP-1の場合は、mRNAの合成速度が主因となってmRNA量が変化することが明らかになった。そこで、このIGFBP-1のmRNA合成速度の調節の機構を明らかにする目的でIGFBP-1遺伝子の5'上流領域約1kbを100〜200bずつの断片にしてクローニングし、それぞれの断片に結合する核内タンパク質(転写因子と想定)を検索した。その結果、1つの領域について、栄養状態のよい場合と悪い場合にゲルシフトアッセイによって異なる結合をするタンパク質があることを発見した。このタンパク質の同定を行ったところ、それがhepatocyte nuclear factor-1(HNF-1)であることが明らかになった。すなわち、栄養条件によってIGFBP-1遺伝子の5'上流領域に結合する転写調節因子の結合状態が異なることが、HNF-1のみによって説明が可能なことから、栄養条件によって核内のHNF-1の修飾、多量体化などの状態が変化し、その結果IGFBP-1遺伝子の5'上流への結合状態が変化して、この遺伝子の転写速度が調節されるものと結論した。
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