本研究は、森林レクリエーションが盛んであった江戸期の都市近郊林を対象に、江戸名所図会などの図会類と地形図を中心資料として、その空間の地形構造と森林、施設、利用の各状況を分析し、もって現代日本の都市近郊林整備のための知見を得ようとしたものである。 研究結果の要点は以下のとおりである。 (1)当時の都市近郊林が成立していた空間の地形構造は、山と川に代表される地形状況に依存し、大きくは平地型、台地型、山型、山・水型、渓谷型の5タイプに、細かくは10タイプに整理できることがわかった。 (2)森林・施設・利用の状況は、空間構造タイプに規定され、それぞれ異なることがわかった。具体的には、斜面が向かい合う狭小な空間となる渓谷型では、樹林の中に入って森林を楽しむ林内利用が主となり、樹形は鑑賞の対象として楽しめるように良好に仕立てられることがわかった。また、山型では、森林を外部から眺めて楽しむ林外利用が中心となり、桜・楓・松の混植が多いことがわかった。 (3)分析結果を現代の都市近郊林整備の知見として次のように整理した。・都市近郊林整備にあたっては、適切な地形構造の空間を選択することがもっとも重要であること。山型にしろ、渓谷型にしろ、水の存在が大きいこと。・森林整備は、地形構造や利用方法によって異なること。林内利用の場合は、樹木密度を疎にし、一本一本の樹形を重視すること。林外利用の場合は、樹冠群の彩りが重要で、複数の樹種を混植すること。・施設整備も、地形、森林、利用に対応するが、平場が得られにくい渓谷型では、橋梁、舞台など人工的な展望園地の配置計画とデザインが重要となること。
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