魚類の卵黄成分の前駆体であるビテロゲニン(Vg)は、エストロゲン(E_2)の作用により肝臓で合成されるカルシウム(Ca)結合蛋白質である。本研究は肝細胞内・外のCaがVgの合成・分泌にどのように係わっているかを明らかにする研究の一環として、ニジマスの培養肝細胞を用いてCaとVg合成の関係を調べたものであり、得られた結果の概要は次の通りである。 1.EGTAを用いて培地のCa濃度を任意に変え、Vgの合成割合を調べた。Vgの合成はCa濃度に依存して増加し、5mMで最大に達した。またこのようなVg合成のCa依存性は、他の蛋白質の場合に比べて強かった。 2.低Ca培地(1.0mMCa)でのE_2によるVg合成の促進効果を調べるために、培地にウシ成長ホルモンおよびヒツジプロラクチンを添加した。ウナギではこれらホルモンの添加により、Vgの合成は著しく促進されたが、ニジマスではこのような結果は認められなかった。この結果は2.6mMCa含有培地でも同様であった。 3.Ca関連試薬を用いた実験から、ランタン(Caチャンネル阻害剤)、ウワバイン(Na^+-K^+ATPase阻害剤)等の添加により、Vgの合成は特異的に抑制された。しかしジルチアゼム(電位依存性Caチャンネル阻害剤)では抑制効果はなかった。 以上の結果から、ニジマス肝細胞でのVgの合成には、脳下垂体ホルモンは直接関与していないが、細胞内・外のCaイオンが特異的に関係していることが明らかになった。
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