魚類の卵黄成分であるビテロゲニン(Vg)の合成機構を明らかにするために、肝細胞培養系を用いて、脳下垂体ホルモンと培地のCa濃度の影響を調べた。得られた結果の概要は次の通りである。 1.ニジマスでは、エストロゲン(E_2)添加により活発なVgの合成・分泌が誘起されたが、ウナギでは、E_2だけではVgの合成はほとんど起きなかった。この場合、成長ホルモンまたはプロラクチンを加えることにより、多量のVgが合成された。 2.In vivoにおいても、脳下垂体除去ウナギにE_2を投与しても、Vgの合成は誘起されなかった。 3.EGTAを用いて培地のCa濃度を任意に変え、ニジマスのVg合成を調べた。培地のCaは濃度依存的にVgの合成を促進し、5mMCaのとき最大に達した。またCa濃度の如何にかかわらず、脳下垂体ホルモンによるVg合成の促進効果は認められなかった。 4.Ca関連試薬を用いた実験から、ジルチアゼム(電位依存性Caチャネル阻害剤)の添加ではVg合成は影響を受けなかったが、ランタン(全Caチャネルの阻害剤)、ウワバイン(Na^+-K^+ATPase阻害剤)などの添加により、Vgの合成は特異的に抑制された。 以上の結果から、ニジマスとウナギでは、Vgの合成に対する脳下垂体ホルモンの関与様式が異り、ウナギでは、これらホルモンはVgの合成に不可欠であることが明らかになった。またCa結合蛋白質であるVgの合成には、細胞内外のCaイオンが必須であることも判明した。これらの結果は、今後のVg合成機構の解明に寄与するであろう。
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