研究概要 |
ニホンウナギAnguilla japonicaの産卵生態と初期生活史は依然として未知の部分が多い。これらを明らかにすることは東アジアに来遊するシラスウナギの資源変動を解明する端緒となるだけではなく,現在行き詰まっている我国のウナギ人工種苗生産の試みに大きな示唆をもたらすものと考えられる。本年度実施した耳石微細構造と微量化学成分の解析から得られた結果は以下のとおりである。 (1)ICP法により耳石中の微量元素を測定したところ,Ca,Sr,Zn,Fe,Mg,Mn,Al等が検出された。この内Caが最も多く,重量パーセントで約40%,次いでSrが0.1〜0.3%程度であった。Srの値は魚種間で大きく異なり,フナ,ライギョ,オイカワなどの淡水魚では0.1%前後,ハタハタ,マアジ,ハダカイワシ等海水魚では0.2%前後,そしてウナギ,サクラマスなど通し回遊魚ではその中間的値となった。 (2)シンクロトロン放射光を利用した螢光X線イメージングにより利根川産下りウナギの耳石を分析したところ,耳石の中心部にのみ高濃度のSrが検出された。これより本種の生活史として一般に言われている通り,この個体は発育初期に外洋生活を送り,その後河川に遡上して淡水域で長期間過ごしたものと推定された。一方,男女群島の海域で採集されたウナギの耳石を同様に分析してみると,Srが高濃度に含まれる層は耳石中心部のみならずほぼ耳石全域に亘っており,これらの個体が淡水域へ遡上することなく海にとどまっていたことが示された。 (3)耳石形成速度のキャリブレーションに関する実験は本年度人工種苗性産による良質卵が得られなかったため実施できなかった。
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