食肉は流通の過程において空気にさらされたり、真空包装されたり、あるいは凍結されたりすることによって、ミオグロビンの誘導形態が変化するため、可視波長領域においてさまざまな分光化的な特徴を呈するが、肉眼的な表色系では、紫赤色、鮮赤色、赤褐色などの印象で捉えられるために、それが消費者の選択の目安とされる。 これらの食肉の色調表現は家畜の種類のみならず、筋肉の部位によっても、変褪色の進み方が異なるため、その制御に対して決め手を欠いている。 われわれは、系統的に行ってきた、いわゆる電気刺激によって、食肉の熟成が促進されることの他にミオグロビンのオキシ型誘導体の状態の持続時間が長いことを見出してきたが、その鮮赤色の維持は、ミオグロビンの濃度よりもむしろNADH還元酵素の活性に依存しているらしい事をつきとめた。 当初計画していた電気刺激処理後の食肉の筋肉部位別保蔵と色調安定性試験は、大腿二頭筋による繰り返し試験を優先して行ったので、部位別比較は平成6年度の計画に先送りしたが、大腿二頭筋による試験結果によれば、ミオグロビン含量の高い経産牛の方が、ミオグロビン含量の低い若令肥育牛よりもNADH還元酵素活性が強いことが明らかになった。即ち、一定程度以上に加令された牛の筋肉中のNADH還元酵素の活性は、年令と共に活性化され、電気刺激によって、更に賦活されることが明らかになった。食肉の部位別ミオグロビン含量と、NADH還元酵素との関係において同様の傾向がみられる可能性があるという点で今年の研究成果に期待がもたれる。
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