ウシ小型ピロプラズマ原虫(Theileria sergenti)感染牛では原虫は持続感染し、血中での寄生率の増減がみられ寄生率の上昇にともない臨床症状を示す。持続感染中、原虫が体内のどこに存在し、またどの様に免疫を回避し再増殖するのかが大きな問題となっている。本原虫の分子量32KD蛋白質(p32)は原虫表面に発現されており宿主に認識される主要な抗原であり免疫回避の際、重要な抗原となっている。そこでp32遺伝子をクローニングし、その塩基配列の解析から日本の分離株には遺伝子レベルの違いから3つの型に分けられた。このうち日本に分布する代表的な池田(I)型と千歳(C)型を特異的に増殖できるプライマーを設計し、DNA型別PCR法により原虫株に含まれるI型とC型を区別する事が可能となった。このDNA型別PCR法を用いる事により日本の分離株の多くが1つの原虫株にI型とC型が混合感染している事を明らかにした。 モノクローナル抗体を用いた解析からI型とC型のp32抗原の抗原性は異なっていることが明らかとなった。IとC型原虫が混在する新得株を子牛に接種し、持続感染の経過中に出現する原虫のDNA型ならびに出現抗体を調べた。その結果、まず1つの原虫の型が出現するとその原虫に対する抗体が上昇しその型の原虫は血中から消失した。次いで別のDNA型の原虫が血中に出現した。 タイレリア原虫は主要表面抗原の抗原性を異にする原虫が混在して存在し、宿主体内での免疫応答により1つの型の原虫が消失すると別の抗原型の原虫が出現し、持続感染を成立させていることが強く示唆された。
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