本研究の目的は、免疫系サイトカインの脳への作用機構を、細胞分子レベルで解析することである。前年度の研究で、ラット脳にはインターロイキン(IL)-1βや腫瘍懐死因子(TNF)に対する特異的受容機構が存在し、それがコルチコトロピン放出ホルモン(CRH)やエイコサノイド合成系を介して、各種の急性相応答を引きおこすことを明らかにした。そこで、関与するエイコサノイドの分子種を特定するために、視床下部と脾臓のノルエピネフリン(NE)代謝回転を指標にして検討し、以下の結果を得た。 1.IL-1を脳室内に投与すると、NE代謝回転は、視床下部、脾臓共に促進された。この効果はCRH投与によって再現され、CRH抗体投与によって消失した。 2.プロスタグランジン(PG)類では、調べた5種類のうち、PGE_2とPGD_2が有効であったが、前者は脾臓のNE代謝回転についてのみ、後者は視床下部についてのみ、促進がみられた。 3.これらPGの効果はCRH抗体投与で消失した。しかし、CRHの効果はPG合成阻害剤の投与によっては影響されなかった。 これらの結果から、IL-1の脳への作用は、特異的レセプター(IおよびII型レセプター)を介してPG合成がおこり、それがCRHニューロンへと伝達されることにより発現すると結論した。更に、PGのうちでもPGE_2が末梢NE作動性ニューロン(交感神経)の活性化に、PGD_2が中枢NE作動性ニューロンの活性化にそれぞれ寄与することが明らかとなり、IL-1の多様な中枢作用が脳内PG分子種の違いで分別されている可能性が示された。これらの新知見は、IL-1の作用に限らず、PGが脳内で神経伝達物質あるいは修飾物質として作用することを示唆しており、今後の大きな課題を提起したことになる。
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