研究概要 |
乳腺腫瘍の抑制遺伝子の有力な候補のひとつであるプロヒビチン遺伝子の動物間の保存性を検討するために,イヌ,ネコ,ウマ,ウシおよびウサギの肝組織より抽出したmRNAよりRT-PCR法で,同遺伝子の一部をクローニングした.プライマーとして,ヒト・マウス・ラット間で,完全に一致した塩基配列(20mer)を合成して使用した.塩基配列を比較した結果,いずれの組み合わせでも90%異常の相同性がみられ,本遺伝子が哺乳動物の間で極めて高い保存性を有することが明らかとなった. 腫瘍関連遺伝子の発現を検出することによる腫瘍診断の可能性を検討するために,本学家畜病院に来院し,肥満細胞腫を中心に病理組織診断の確定症例について,c-kitの発現の有無を検討した.陽性対照として,c-kit遺伝子の発現が知られる脾臓より抽出した全RNAを,また,プライマーとして,ヒト・マウス・ラット間で,完全に一致した塩基配列(20mer)を合成して使用した.mRNA量のスタンダードとしてチュブリンのプライマーを合成し,c-kitと,完全に同一条件でチュブリンの発現も同時に調べ,発現のあるサンプルのみ解析した.調べたサンプルのうち,チュブリンの発現が検出された2例の肥満細胞腫では,いずれもc-kit遺伝子の高レベルの発現が観察され,肥満細胞腫の診断への本法の有用性が示唆された.また,期待されたように,c-kitの発現は,腎腫瘍,乳腺腫瘍,リンパ腫では認められず,骨髄腫では検出された.一方,膵臓腫瘍の1症例で,明かなc-kit遺伝子の発現が認められた.同遺伝子の発現は,肥満細胞のほか,骨髄幹細胞,生殖細胞,色素細胞およびこれより由来する腫瘍組織での発現は知られているが,膵臓腫瘍における発現に関する報告はないので,更なる症例の検討を行う予定である.
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