研究概要 |
紫外線はイネの光合成活性を低下し、地上部、地下部の新鮮重、乾燥重の増加、葉の分化、根の発達、葉のクロロフィル含量などの生長を抑制する。紫外線が引き起こす生育傷害に対してイネ品種間には差異が存在し、日本型イネのうち、ササニシキは強い抵抗性を示すが、農林1号は弱い抵抗性を示した。環境調節実験室で認めた紫外線抵抗性に関する品種間差異は圃場試験においても認められ、実験室試験で強い紫外線抵抗性を有する品種を選抜できる事が判明した。更に、アジア地域の栽培稲Oryza sativa Lの5生態型(ベンガル地方のaus,aman,boro,インドネシア地方のbuiu,tjereh)のインド型イネと日本水稲および陸稲の計198品種の紫外線に対する抵抗性を調査した結果、紫外線の多い赤道付近の地域で栽培されているindicaのイネ品種が必ずしも強い抵抗性を示すのではなく、日本水稲、boro生態型に強い抵抗性を示す品種が多く含まれていることが判明した。つまり、栽培イネの紫外線抵抗性は草丈の違い、穂重型、穂数型といった草型の差、栽培されている地理条件とは関係せず、従来の生態型の概念では説明出来ない。日本のイネ品種は生態型として区別することが難しいくらいお互いに交雑が繰り返され、近縁にも拘らず、紫外線抵抗性に大きな差異が存在するが、現在、それに関する遺伝変異を調査しつつある。また、高濃度の二酸化炭素はイネ品種の生長を促進し、紫外線による生育阻害を軽減した。しかし、高濃度の二酸化炭素処理により生育が促進される品種が必ずしも高濃度の二酸化炭素による紫外線の生育阻害の高い回復を示すわけではなかった。なお、圃場試験にて、紫外線は収量の他に穀粒の形状や蛋白含量、米質などにも影響することも判明している。紫外線の効果は他の環境によって左右されるので、数年間の圃場試験を計画している。
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