研究概要 |
紫外線はイネの葉のクロロフィル含量、光合成活性を低下し、地上部、地下部の新鮮重、乾燥重の増加、葉の分化、根の発達などの生長を抑制する。このような紫外線が引き起こす生育傷害に対してイネ品種間には差異が存在し、日本型イネのうち、ササニシキは強い抵抗性を示すが、農林1号は弱い抵抗性を示すことが判明している。従来の試験においては、紫外線源として少量のUV-Cを含むUV-Bを用いていた。しかし、今年度はカットフィルターUV-29、UV-31あるいはセルローズアセテートフィルムを駆使することによってUV-Cを除去し、成層圏オゾン層の減少に伴って増大する環境紫外線UV-Bの世界を作りだし、純粋なUV-Bがイネの生育に及ぼす影響を調査した。その結果、UV-Bは少量のUV-Cを含むUV-Bの場合と同様に、種々のイネの生育因子の増大を抑制すること、それら各生長因子を抑制するUV-B反応の光受容体としては特殊なUV-B受容体が存在するのではなく、蛋白、核酸あるいはクロロフィルなどがUV-B受容体として働いている可能性が示唆された。さらに、UV-Bは葉に取り込まれる窒素含量、光合成のキ-酵素であるRubisco含量に影響し、このことが生育の抑制に関係することが示唆された。なお、現在も研究を続行中である。このUV-Bの効果に対しても、ササニシキは農林1号より強い抵抗性を示した。また、ササニシキと農林1号を交配し、後代世代F2,および、F2個体の自殖により得られたF3系統を用いて、紫外線がバイオマスの増大、葉のクロロフィル含量に及ぼす影響をマーカーにして、紫外線抵抗性に関する遺伝的変異を調べた。その結果、イネの紫外線抵抗性は2個以上の劣性の主働遺伝子によって調節されていることが判明した。この知見は世界に先駆けて得られたものであり、大変価値の高い成果であると云える。
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