研究概要 |
1.紫外線はイネの葉のクロロフィル含量、光合成活性を低下し、地上部、地下部の新鮮重、乾燥重、分けつ、根の発達を抑制した。2.アジアの代表的な栽培稲のうちベンガル地方のaus, aman, boro生態型、インドネシアのbulu, tjereh生態型と日本水稲および陸稲グループの紫外線感受性を解析した結果、同じ生態型や品種群に属する品種でも異なった反応を示すこと、紫外線量の多い南方地域の栽培品種が必ずしも強い抵抗性を示すのではなく、日本水稲、boro生態型も強い抵抗性を示すこと、日本水稲のうち、ササニシキは強いが農林1号は弱いことなど紫外線感受性は従来の生態型の概念では説明出来ないことが判明した。3.大気中の高濃度CO2は紫外線の生育抑制を軽減した。4.ササニシキと農林1号を交配し、後代世代F2, F2個体の自殖により得られたF3系統を用いて紫外線抵抗性に関する遺伝的変異を調べた結果、イネの紫外線抵抗性は2個以上の劣性の主働遺伝子によって調節されていることが判明した。5.カットフィルターやセルロースアセテートフィルムを駆使し、紫外線の波長を調べた結果、成層圏オゾン層の減少に伴って増大する環境紫外線に相当するUVBが種々のイネの生育因子の増大を抑制することが明かとなった。光受容体としては特殊なUVB受容体が存在するのではなく、蛋白、核酸あるいはクロロフィルなどがUVB受容体として働いている可能性が示唆された。6. UVBは葉身窒素含量、可溶性タンパク質、光合成のキ-酵素であるRubisco含量を低下した。この低下の程度にも品種間に差異が認められ、農林1号で甚だしかった。7.葉のUV吸収物質の蓄積はUVBによって増大された。この増大の程度はササニシキで著しかった。この様に、イネの紫外線抵抗性の差異はRubisco含量およびUV吸収物質の蓄積量の差によることが明らかとなった。
|