研究概要 |
1980年代から現在まで継続して行っているタイ国での野生イネ定点観測のデータを基礎にして,遺伝資源保全の立場から植物集団の自生地保存に有用な情報の蓄積をめざしている. 1.データ解析-1933年と1992(あるいは93)年にほぼ正確に同じ場所を再訪できた21の野性イネ集団について,集団サイズの変化,環境条件の変化,栽培実験によって調べた遺伝的特性を比較した.10年間に絶滅したかあるいは集団サイズが著しく減少した集団の大部分は,環境攪乱の激しい場所に適応した一年生型の野性イネであることがわかった. 2.実験的研究-野性イネは栽培イネと近接して自生し自然交雑している場合が多いので,保存地を設定する場合,栽培イネの遺伝子がどの程度流入しているか(‘汚染'されているか)が重要な問題となる.野性イネと栽培イネは遺伝的に近縁なので,低頻度の遺伝子流入を効率的に検出できる有用な遺伝子マーカーがなかったのだが,ポリアクリルアミドの電気泳動システムを用いたアイソザイム調査の結果,Est-10遺伝子座のある特定の遺伝子が野性イネ特異的であることが見出された. 3.理論的研究-遺伝資源を自生地で保全することの利点を明らかにするために,それとは対照的な施設内保存による遺伝変異保有の効率を研究した.労力や設備が限定されているという条件の下で5つの異なる世代更新法を比較した.当初の遺伝子多様度を後期世代まで効率よく維持するには,自殖性(60%以上)の場合には1個体1子法が,他殖性の場合は2親交配法がよいことがわかったが,後者は労力的に難しいことが多い.
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