研究概要 |
1980年から現在まで継続して行っているタイ国での野生イネ定点観測のデータを基礎にして,遺伝資源保全の立場から植物集団の自生地保全を考える際に必要な知見を得るための実験的・理論的研究が課題であった.本年度得られた主な結果は次の通りである. 1.環境撹乱に対する野生イネ集団の反応-野生イネの種内に分化している二つの生態型,すなわち多年生型と一年生型の集団が撹乱に対して全く異なる反応を示すことが過去の観察データや実験データのとりまとめから明らかになった.多年生型は、集団の遺伝子型構成を変え一年生的個体が増加する.一年生型は、撹乱によって集団の一部が絶滅しても,多量に生産される種子によってすぐ新しい集団を形成することで適応している.これらのことは自生地を保存するために必要な管理法が多年生型と一年生型の集団とでは異なることを示唆している. 2.理論的研究-野生イネをはじめ多くの植物では有性繁殖と無性繁殖とを併用している種が多いが,そのような系での集団遺伝学の理論は体系化されていなかった.このような種の自生地保全のための基礎研究の一部として,遺伝子頻度の動態を中立的遺伝子および選択が働く遺伝子の場合について検討した.また集団の有効な大きさに無性繁殖の有無がいかに影響するかをモデルによって考察した.
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