前年度の研究で、高等植物コマツナにPKCが存在することを明らかになったことから、次に、本植物の各器官(根部、茎部、葉部)それぞれのPKC分布を検討した。その結果、本酵素活性は根部、茎部、さらに葉部すべてに検出され、とくに根部と葉部に集中していた。本酵素の植物体内における生理生化学的役割を検討するのに、我々は葉部におけるその機能解明を試みた。そこで葉部からのPKCの精製を、すでに前年度の研究で確立した方法で遂行し、部分精製標品を得た。また、葉部からコマツナ硝酸還元酵素(NR)を既に確立されている方法で部分精製し、部分精製PKC画分とNR画分をin vitroで反応させ、NRタンパク質へのリン酸基転移触媒能を検討した。その結果、NR活性への失活的影響は認められなかったが、PS、DO、Ca^<2+>存在下でのみNRタンパク質へのリン酸基付加が検証された。NRは高等植物の硝酸同化の律速段階(硝酸イオンが亜硝酸イオンに還元される反応)を触媒する酵素である。現在、植物生体内におけるNR活性は光照射によって活性化され、暗黒処理によって阻害されると言われている。その際、NRタンパク質の脱リン酸化、リン酸化が起こっているという見解が認められつつある。我々もコマツナ葉中のNRが暗黒処理によりin vivoでリン酸化されていることを明らかにした。さらに、本年度、高等植物の窒素代謝の基幹酵素であるNRのリン酸化に本高等植物のPKCが関与している可能性が示唆されたことは、高等植物における環境情報伝達過程におけるPKCの役割をクローズアップさせるにたる重要な糸口となったといえるとともに、NRの失活機構やPKCの詳細な反応機構等さらになる検討は、植物生理生化学上の重要な発見に連なるであろう。
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