胃プロトンポンプは胃酸分泌機構の最終段階に位置するポンプである。この酵素にはポンプ機能以外に、塩素イオンチャネル機能も併せて存在することを1987年我々は発見した。ポンプとチャネルが同一分子内に存在することがいかにして可能なのか、またポンプがいかなる機構でイオンを能動輸送しえるのか等を解明する研究を行っている。本年度に発表された我々の論文はこの酵素の構造(Biochemical J.)及び機能(J.Biol.Chem.)に関するものである。更に、第3の塩素イオンチャネルとして、胃酸分泌細胞内に存在する細胞防御にかかわる新規なチャネルを発見し、その細胞内制御機構を明らかにした(J.Physiol.)。 他方多剤薬物排除ポンプにおいて、1992年ポンプと塩素イオンチャネルが同一分子内にあることが英国の学者により発見された。我々はこのポンプの機能を正常細胞で観察しうる細胞系を立案した。2個の細胞間に胆細管のモデルになる空間を培養により形成し、ポンプにより運ばれる蛍光性の物質量を顕微鏡下に画像解析により求められることを世界で始めて示した。肝移植において、免疫抑制剤サイクロスポリンの副作用がこのポンプの抑制にあることをこの系を使用して示した。わが国で開発されたFK506にはこの副作用がないことを明らかにした(Transplantation)。この仕事は肝移植の父といわれる米国のStarzl博士より絶賛された。 胃プロトンポンプの構造と機能の研究は、現在遺伝子を使うことが可能になるよう研究を展開している。多剤薬物排除ポンプの塩素イオンチャネルについては、パッチクランプ法を使った研究を展開している。
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