研究概要 |
リゾリン脂質は虚血心筋に蓄積し、心筋細胞に障害を与えていると考えられている。その障害の原因はリゾリン脂質がNa^+チャネルの不活性化過程を抑制するため、[Na^+]_<in>が増加し、Na^+-Ca^<2+>交換系が作動して、[Ca^<2+>]_<in>が増加するためと考えられる。リゾリン脂質のこのような作用を抑制する薬物は虚血・再潅流障害を抑制するのでないかという考えのもとに本研究を行った。 まず、リゾリン脂質と同様にNa^+チャネルの不活性化を抑制するveratridineに対する薬物の影響を調べた。veratridineは(6.3×10^<-3>M)をラット心室筋細胞に投与すると、[Ca^<2+>]_<in>が急激に増加した。細胞外液中のCa^<2+>をfreeにすると、リゾリン脂質のよる[Ca^<2+>]_<in>の増加はおこらなかったので、リゾリン脂質による[Ca^<2+>]_<in>の上昇は細胞外からのCa^<2+>流入増加による。この[Ca^<2+>]_<in>増加はTTX(10^<-5>M)によって抑制されず、dl-propranolol(10^<-5>M),d-propranolol(10^<-5>M)やdilazep(10^<-5>M)によって抑制された。しかし、timolol(10^<-5>M)によって抑制されなかった。このことから、veratridineの[Ca^<2+>]_<in>上昇機構はβ受容体を介するものではなく、おそらく病的に開存したNa^+チャネルをこれらの薬物が抑制した結果である。 次に細胞膜に多く存在するリゾリン脂質の一つであるlysophosphatidylcholine(LPC)の作用を調べた。LPC(2×10^<-5>M)はveratridine同様,ラットの心筋細胞の[Ca^<2+>]_<in>を急激に上昇させ、この[Ca^<2+>]_<in>上昇は細胞外液のCa^<2+>をfreeにすると起こらず、verapamil(2×10^<-4>M)やTTX(10^<-4>M)で抑制されず、d-propranolol(2×10^<-5>M)やdilazep(2×10^<-5>M)で抑制された。従って、LPCによる[Ca^<2+>]_<in>の上昇は細胞外からのCa^<2+>流入によるが、電位依存性Caチャネルを介さず、β受容体にも関係がなく、恐らくLPCによって病的に開存したNa^+チャネルを抑制するためと考えられる。 以上の実験結果から、虚血・再潅流障害を抑制する薬物を開発する新しい考え方と方法が出来た。
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