研究概要 |
本研究は、虚血・再潅流によって、まず心筋に活性酸素が生じ、この活性酸素からフリーラジカルが生じ、フリーラジカルは細胞膜のリン脂質を過酸化し、このためphospholipaseA_2の活性が増し、これによって細胞膜のリン脂質からLPCを生じ、このLPCが組織障害をおこすという仮説が正しいか否かを確かめるために行った。実験結果を総合すると次のようになる. 1.潅流心臓において、過酸化水素は虚血による変化によく似た変化をおこし、心筋細胞の脂質を過酸化する。過酸化水素による虚血様心臓変化と脂質過変化は、ildocaineによって抑制される。Lidocaineはradical scavenger作用がありこの作用が過酸化水素による変化を抑制したものと考えられる。 2.分離心筋細胞において、過酸化水素は細胞の形態を変化させ、遊離脂肪酸の蓄積をおこす。過酸化水素の作用は、lidocaineでは抑制出来なかったが、d-propranololとK-7259が した。Lidocaineのradical scavenger作用は弱いので、細胞レベルでは発揮出来なかったものと思われる。d-PropranololとK-7259はradical scavenger作用、もしくはcytoprotective effectによって過酸化水素による障害を抑制したのであろう。 3.潅流心臓において、LPCは虚血同様の作用をあらわした。このLPCの作用は、lidocaineでは抑制出来なかったが、d-propranolol,dilazep,K-7259によって抑制された。 4.分離心筋細胞において、LPCは細胞内Ca^<2+>濃度を上昇させ、形態変化をおこした。LPCによるこれらの変化は、dilazepとd-propra-nololによって抑制された。 5.分離心筋細胞において、LPCは細胞内Ca^<2+>濃度を上昇させ、細胞の形態変化をおこした。LPCによるこれらの変化は、l-およびd-propranolol,l-およびd-penbutololなど、脂溶性の高いβ-遮断薬によって抑制された。βAAやMSAは関係してなかった。 6.分離心筋細胞において、LPCはnon-selective cation currentを増加させた。LPCによる細胞内^<2+>濃度上昇作用の一部はこれによって説明がつく。 以上のことから、我々の仮説は一部証明出来たと思われる。しかし、問題はまだある。分離心筋細胞において過酸化水素作用は、なぜlidocaineでは抑制出来なかったのか不明である。また、LPCがどのようなメカニズムで遊離脂肪酸を蓄積したのかが分からない。虚血・再潅流によって生じたLPCが膜のリン脂肪を分離して新たなLPCをつくると考えられ、LPCは虚血・再潅流障害における中心的な役割を担う悪玉物質で、しかも新たなLPCを作り出すという悪循環をしていることが分かる。なぜ、d-propranololやK-7259がLPCの作用を抑制するのかを解明することが、今後の最大の問題である。
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