交感神経系は血管平滑筋のトーヌスをコントロールして、血圧の制御に重要な役割を果たしているが、伝達物質のノルアドレナリンは、部位によっては血管平滑筋の脱分極をほとんど伴わずに収縮を引き起こす。この収縮は、細胞内Ca^<2+>貯蔵部位(ストア)からのCa^<2+>放出に引き続くものと考えられる。我々は、これまでの研究によって、アゴニストによる単離平滑筋細胞内Ca^<2+>放出がほとんど全か無かの法則に従って制御されていることを発見した。従って、交感神経系は収縮する血管平滑筋の割合を変えることによってトーヌスを調節している可能性がある。そこで本研究では、神経刺激による血管壁平滑筋細胞のCa^<2+>放出が、全か無かに従って起こるか否かを明らかにすることを最終的目標としている。本年度は、実験系を確立し神経刺激に対する応答を観察する準備としてノルアドレナリンに対する反応を観察した。ラット尾動脈を摘出して、蛍光Ca^<2+>指示薬fluo-3を細胞内に負荷した。これをレーザー共焦点倒立顕微鏡のステージ上の実験槽に固定し、血管壁内の平滑筋細胞の像を観察できるようにした。この動脈には輪状に走る一層の平滑筋細胞が存在する。共焦点画像を1秒おきに取り込んで、細胞内Ca^<2+>濃度増加が各細胞においてどのように起こるかを観察した。その結果、ノルアドレナリン刺激による細胞内Ca^<2+>濃度上昇は、細胞内を波状に伝播するCa^<2+>ウエーブの繰り返しとして観察された。このようなCa^<2+>濃度上昇が発生している以外の時点では、細胞内Ca^<2+>濃度は上昇していなかった。このことは、尾動脈平滑筋細胞では、細胞外から流入するCa^<2+>は一旦Ca^<2+>ストアに取り込まれてから放出されることを示すもので、従来の概念を大きく変えるものである。
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