交感神経系は血管平滑筋のトーヌスをコントロールして、血圧の制御に重要な役割を果たしている。交感神経の伝達物質であるノルアドレナリンは細胞内Ca^<2+>貯蔵部位(ストア)からCa^<2+>放出を起こして平滑筋細胞の収縮を引き起こす。我々は、これまでの研究によって、アゴニストによる単離平滑筋細胞内Ca^<2+>放出がほとんど全か無かの法則に従って制御されていることを発見した。従って、交感神経系は収縮する平滑筋細胞の割合を変えることによってトーヌスを調節している可能性がある。これは血圧調節機構を理解する上において基本的かつ重要な問題である。そこで本研究では、神経刺激による血管壁平滑筋細胞のCa^<2+>放出が、全か無かに従って起こるか否かを明らかにすることを目的とした。平成5年度に確立した標本を用い、共焦点顕微画像解析法による血管壁内平滑筋細胞の細胞内Ca^<2+>濃度測定を行った。実験槽をレーザー共焦点倒立顕微鏡のステージ上に固定し、血管壁の平滑筋細胞の共焦点像(断層像)を観察しながら、血管壁周囲の交感神経を電気刺激を行い、細胞内Ca^<2+>濃度増加が各細胞においてどのように起こるかを観察した。この結果、一定強度の交感神経刺激に伴って、すべての平滑筋細胞が一様に反応するのではなく、個々の細胞でCa^<2+>濃度が周期的に上下するという意外な事実が明かになった。この周期的Ca^<2+>濃度上昇(Ca^<2+>オシレーション)は、細胞によって異なった時相で起こるので全体としてみると一定強度の反応として観測されていた。従って、細胞が個別にCa^<2+>濃度の上下を繰り返していることは本研究によって初めて明かになった事実である。細胞内Ca^<2+>濃度上昇を更に詳しく観測すると、個々のCa^<2+>オシレーションは細胞内の20μm/s程のスピードで伝播する細胞内Ca^<2+>放出に依存したCa^<2+>ウエーブであることも明らかになった。
|