研究概要 |
下垂体後葉ホルモンとしてのバソプレシン(AVP)の作用はよく知られているが,脳におけるAVPの神経伝達物質としての生理的意義に関しては不明な点が多い.そこで,平成6年度は前年度の成績をもとに,次の点に関して明らかにすることができた. 1.脳におけるAVP受容体サブタイプとその性質 放射ラベルの^3H-AVPをリガンドに用いて結合実験を行なった.その結果,^3H-AVP結合は海馬および孤束核ともに,非ペプチド性のV_1受容体拮抗薬で強く阻害され,V_2拮抗薬での阻害は弱かった.しかしながら,中枢作用の強いAVPフラグメントのAVP_<4-9>は^3H-AVP結合に対してなんら阻害効果を示さなかった. 次に抹消組織のAVP受容体のcDNAの塩基配列をもとに作成されたAVPのV_<1a>およびV_2受容体のプローブを用いて,中枢AVP受容体の発現をRT-PCR法によって検討した.その結果,興味深いことに,海馬や孤束核において,V_2受容体mRNAの発現が確認された.しかし,V_<1a>受容体mRNAの発現は認められず,結合実験の成績との間に矛盾が生じた.この点は今後の研究課題である.現時点での考察として,脳におけるAVP受容体は末梢のV_<1a>受容体とそのシークエンスの一部が異なる新規AVPV_1サブタイプである可能性が考えられる. 2.タキキニン.ペプチド-AVP系の体液調節機構 前年度の研究から,中枢における体液調節機構に,タキキニン・ペプチド-AVP系が存在していることを報告した.今年度はタキキニンNK-3アゴニストの作用部位を同定した.その結果,視床下部の室傍核のNK-3受容体を介し,下垂体からバソプレシンを遊離し,抗利尿作用が発現していることが明らかとなった.
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