研究概要 |
アデニル酸キナーゼ(AK)は、生体が増殖、分化、運動、代謝などの機能を正常に発揮するために必要な細胞内アデニンヌクレオチドの恒常性維持に重要な役割を担う酵素であり、細菌から動物にいたるまで広く生物界に分布する。脊椎動物では3種のアイソザイム(AK1,AK2,AK3)が存在し、それぞれ組織分布、並びに細胞内局在性が異なる。本研究では、培養細胞系を用いて、3種のアイソザイムの内、1つまたは複数を欠く変異細腕を作製し、それらの表現系を調べることによりアデニル酸キナーゼの生理的意義を解明することを目的とした。 まず、ヒト子宮頚部癌由来のHeLa細胞が実験系として適当かどうか、酵素活性、酵素蛋白、転写産物について調べ、本細胞には3種のAK遺伝子が存在し、発現していることを示した。そこで、既に染色体遺伝子の単離と解析を終えているヒトAK1遺伝子を用いて、相同的組換による遺伝子破壊のためのターゲッティイングベクターを2種類作製した(AK1-Bsr,AK1-Neo)。 HeLa細胞のAK2遺伝子を破壊するためには、ヒトのAK2染色体DNAが必要となる。ウシAK2の全長cDNAをプローブとしてスクリーニングを行い、HeLa細胞からヒトAK2 cDNAを単離した。得られたcDNAをプローブとしてヒトゲノムDNAライブラリーをスクリーニングした結果、エクソン1を含む約9.5kbの染色体DNAを得た。 本研究において、相同的組換による遺伝子破壊によりアデニル酸キナーゼアイソザイムの代謝調節上の役割を解明しようと試みたが、現在までのところまだ完了していない。その原因として、動物細胞における遺伝子の相同的組換の頻度が当初予想していたよりはるかに低いことがあげられる。今後、これらの経験を生かし、細胞レベルでの遺伝子破壊によるアデニル酸キナーゼ遺伝子機能の解明に取り組んで行きたい。
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