研究概要 |
いわゆる“neoplastic angioendotheliosis(NAE)"は中枢神経系を含む全身諸臓器の小動脈や毛細血管内に腫瘍細胞が増殖する特異な疾患である。この腫瘍細胞の由来に関しては長年議論が続けられてきたが,我々は免疫組織学的検索,免疫受容体遺伝子再構成の検索を行ない,この腫瘍細胞がリンパ球系細胞に由来するものであることを確定した。最近ではその名称もIntravascular malignant lymphomatosis(IML)とするのが一般的になりつつある。 1.免疫受容体遺伝子の検索 IMLではリンパ球系細胞の本質である免疫受容体遺伝子の検索は十分にはなされていない。IMLにおける免疫グロブリン遺伝子再構成の実体を明らかにする目的で,免疫グロブリンH鎖のV‐D‐J接合部領域であるCpmplementarity‐determining region(CDR‐III)を解析した。V領域framework region(Fr3)配列とJ領域consensus配列とをprimerとして用い,CDR‐IIIをPCR法で増幅し,ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行なった。IMLおよびB細胞性悪性リンパ腫でのみモノクロナルなPCR産物が認められたが,癌,Glioma,正常末梢血などではそうした産物は増幅されないことから,リンパ腫細胞に固有のものと考えられた。このPCR産物をcloning後塩基配列を決定したところ,それらの塩基配列には共通性は認められないがいずれも免疫グロブリン遺伝子の特徴を有しており,Bリンパ腫細胞に固有なCDR‐III領域が検出されることが示された。その配列はRT‐PCR法により得られた同一症例のcDNAの塩基配列と一致した。IMLは生前確定診断が極めて困難な疾患であるが,PCR法を用いた免疫グロブリン遺伝子の検出によって早期確定診断の可能性があると考えられた。 2.がん抑制遺伝子の検索 近年,種々のヒト腫瘍においてがん抑制遺伝子変異の解析が進められてきている。しかし,IMLではいまだがん抑制遺伝子に関する報告は皆無である。NAE腫瘍細胞の増殖に関与する因子を検討する目的で、種々のがん抑制遺伝子変異の解析を行なった。我々は免疫グロブリン遺伝子再構成が証明された上記の3例のIML腫瘍組織DNAを対象にがん抑制遺伝子p53,p16(MTS1),p21(WAF1)を検討した。p53遺伝子Exon5,6,7,8およびp16遺伝子Exon2についてPCR‐SSCPを行なったが,3例ともに異常バンドは検出されなかった。p21遺伝子Exon2でバンドの移動度に変化を認め,PCR産物をcloningし塩基解析を行なった。その結果3例ともにp21遺伝子のcodon31にアミノ酸変化を伴う塩基置換を認めた。現時点ではこのアミノ酸置換の意義は不明であるが,正常人末梢血DNAを検索したところ約30%程度に見られることから一種のpolymorphismと考えられた。
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