研究概要 |
ホメオボックス遺伝子群は個体発生のプログラムだけでなく、出生後の細胞分化・成熟にも関与している転写調節遺伝子群であることが次第に明らかになってきている。我々は遺伝子組替え技術によって免疫組織化学染色に使用できる抗ヒト・ホメオボックス蛋白抗体の作成に初めて成功し、受精後11,13,15,17,19日令のマウス胎児をモデルとして未分化組織におけるホメオボックス蛋白の発現を調べた。その結果、脳および脊髄神経細胞は弱く染り、皮膚、骨化中の軟骨細胞、心筋細胞、腎および副腎髄質は強く染色された。増殖細胞のマーカーとしてPCNA(DNAポリメラーゼdelta補助蛋白)を免疫染色した結果、抗HOX4B抗体で免疫染色される細胞は、PなCNA陰性あるいは弱陽性の細胞で細胞周期の静止期(G0)あるいはG0期に入りつつある細胞と判定された。注目されたのは手足の水かき部分の皮膚で、プログラム細胞死の領域が強く染色されたことである。マウスでの染色結果に基づいて、ヒト成人の副腎組織を染色したところ、強く髄質が染色され、皮質は全く染色されたなかった。HOX4B蛋白は出生に近づくに従ってその発現は強くなった。副腎髄質腫瘍を抗体HOX4B抗体で染色したところ、その発現が極めて低下しているのが観察された。現在、ヒト成人の剖検組織のパラフィン切片で、主要臓器におけるHOX4B蛋白の発現をスクリーニングしているが、現時点ではHOX4B蛋白はヒト成人の泌尿・生殖器に多く発現されており、白血病細胞にわずかに発現している。腎臓で発現されているHOX4Bホメオメイン蛋白が結合する標的遺伝子を見出すために、腎で発現しているグルタチオン・ペルオキシダーゼ遺伝子の転写調節領域さの塩基配列を調べた。その結果、ホメオドメイン蛋白結合コンセンサス配列C/TAATTAAAに一致するTAATYTAAA配列が見出された。
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