研究概要 |
本研究は病原細菌がどのような状況にあるとき病原因子を産生するかについて分子生物学的に解析し、宿主に寄生した病原細菌の病原因子産生を選択的に抑制する方法を開発することを目的とした。研究の対象材料としては未解決の問題を多く含むグラム陽性球菌・桿菌を選び、外界刺激から遺伝子発現までの菌体内の応答機構を解析した。 ブドウ球菌は46Cの熱ショックに応答して熱ショック蛋白質(HSP60群、HSP70群など)を産生しることを発見し、その蛋白分子と特異的な遺伝子構造を解明した。熱応答は遺伝子の転写レベルで行われており、それには遺伝子群の特異的なバリンドローム構造が関与していることが解かりさらにその特異的構造に結合する蛋白分子があることが判明した。それが転写因子であると推察されるが、ブドウ球菌の転写因子は、大腸菌や枯草菌のように特異的熱ショック応答転写因子が検出されず、ユニバーサルな転写因子が熱ショック調節に関与しているらしい。HSPsの蛋白性状その特異機能については順次明かになりつつある。アルカリショック(pH12)に応答する蛋白分子(ASP23)を同定し、その分子機構も明かにした。 ウエルシュ菌の菌体外毒素・酵素(フォスフォリパーゼ、パ-フリンゴリジン、コラゲナーゼ、ヘモアグルチニンなど)の産生をグローバルに調節する遺伝子(virR/S系)を同定し、その作用機構を解析した。それぞれの毒素遺伝子は独自の転写開始点を持つとともに共通のシストロンとしての開始点もあり、VirR/S系の調節は込み入ったしかし整然とした機構で調節されていることが判明した。毒素関連遺伝子の遺伝子配列(染色体地図)を解析したところpfoR、pfoA、arcA, B, C、pbg(b-ガラクトシダーゼ)などの順で配列していることがわかった。さらに、virR/S系の発現を調節している遺伝子が同定され、その蛋白分子は菌体外に分泌され、他の菌体のvirR/S系の発現をも調節する因子であり、菌体間の情報伝達物質として極めて重要な機能を果していることが推察された。 2種類のグラム陽性菌のストレス応答機構と病原因子産生調節機構が解かり、これをさらに検証・普遍化することにより、病原細菌のストレス(外来刺激)による病原因子産生の調節・制御機構が明かとなり、抗菌作用物質に関する新しい概念が確立できると確信する。
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