研究概要 |
細胞内寄生菌であるリステリア菌と結核菌の代わりにBCGを用いて、感染宿主に誘導される防御免疫と宿主組織傷害作用の発現を、菌のエスケープ因子との関わりにおいて解析した。リステリア感染でマウスに誘導される抗原特異的T細胞を分画して正常マウスに移入し、再感染を行うと、CD4^+細胞群、CD8^+細胞群ともに菌数の減少がみられたが前者がより有意の防御を示し、後者では肝傷害が強く現われた。サイトカイン産生能をRT-PCRでしらべたところ、前者はIFN-γの発現が強く、一方後者ではTNFが強く発現され、防御と傷害に作用するT細胞群がサイトカインレベルである程度分離できることが明かとなった。初感染早期にみられる臓器傷害はエスケープ因子であるLLO産生能と平行し、炎症性サイトカインのうちとくにIL-1とIFN-γ,TNFの発現がエスケープ因子の有無に関係していた。エスケープを可能にするLLOを精製してマクロファージへの作用をみると、IL-1,TNFの発現がLLOのみで可能であった。一方BCGを用いた実験では、病原性を示す生菌と死菌の間に、リステリアにみられたIL-1を主体とするサイトカイン誘導の著明な差異はこれまでのところ認められていない。しかし、防御免疫の発現を可能にするIFN-γ産生性CD4^+T細胞の分化誘導に生菌刺激は不可欠で、生菌刺激ではややIL-12発現が死菌刺激より強く、IL-10発現は死菌刺激のほうが強い傾向が観察された。以上の結果から、リステリアではエスケープ因子であるLLOが直接宿主細胞に作用して産生するモノカインが感染早期の組織傷害に働く一方、防御免疫に働くCD4^+T細胞の機能分化にも関与すること、抗原特異的T細胞の中に組織傷害性のT細胞群も存在することが示され、結核菌では防御免疫の誘導にIL-10とIL-12の発現が重要である可能性が示唆された。
|