研究概要 |
US3にコードされるプロティンキナーゼと単純ヘルペスウイルス(HSV)の病原性との関連をよりはっきりさせるために酵素の精製、及び標的蛋白質の同定を試み以下の結果を得た。 1)US3プロティンキナーゼは分子量68Kの蛋白質で、自己リン酸化能をもち、他のプロティンキナーゼと比べ高濃度の塩に耐性であった。また、acceptorとなるセリン、スレオニンのN末端側に数個のアルギニンを有するアミノ酸配列を好んでリン酸化した。ケルセチン、ポリアルギニンの添加はUS3プロティンキナーゼの活性を強く阻害するが、スペルミンは活性を増強した。 2)感染細胞を凍結融解後、US3プロティンキナーゼの示適条件下でリン酸化反応を行い、オートラジオグラフィーにより標的蛋白質の同定を試みた。野生株感染細胞では分子量14K-21K付近に強くリン酸化される蛋白質が検出されたが、一方、US3遺伝子を不活化したウイルスの感染細胞ではほとんど検出できなかった。この蛋白質のリン酸化は野生株の精製粒子を用いた場合にも認められ、ケルセチンによって強く阻害された。また、US9を欠くウイルスでは14K-21K蛋白質のリン酸化が全く検出できないことから、US3プロティンキナーゼの標的蛋白質の一つは、US9テグメント蛋白質であることが強く示唆された。 3)US3を欠くウイルスの増殖は、U937やRW264などのマクロファージ様細胞株においても強く制限されていることがわかった。 以上に加えて、US9,10,11,12の4つの遺伝子を欠くHSV1型ウイルスの病原性について検討を加え、これらの遺伝子産物は中枢神経系での増殖及び、潜伏感染の成立、維持には重要ではないことを示した。
|