アデノウイルスE1A初期遺伝子はウイルス感染 増殖プログラムの中心的役割を果たす。E1A蛋白はウイルス感染後、最初に発現し、そのトランス型活性化作用によって、自己および他の初期遺伝子群の転写を活性化する。我々はE1A遺伝子自身の発現に関する宿主因子に注目し、E1A遺伝子上流のエンハンサー配列に結合する蛋白(E1A-F)を同定した。そのcDNAおよびゲノムDNAをクローン化し、構造と機能を解析した。さらに、本遺伝子のアデノウイルス増殖における役割を検討した。E1AFはそのC末側にETSドメインを持つことから、c-ets遺伝子ファミリーであることが判明した。E1AF遺伝子のN末側を順次、欠失した変異体を用いて、転写活性化領域を酸性アミノ酸、およびグルタミンに富む領域に決定した。E1AFの遺伝子を分析するためにヒトゲノムライブラリーから4個のクローンを分離した。これらのクローンは、C末端側、ETSドメイン、グルタミンに富む領域を含み、1部、イントロンとエキソン構造が明らかになった。アデノウイルス感染細胞において、感染初期に1.5kb E1AF mRNAが増加した。また、E1AFはE1A遺伝子のプロモーター活性を約5倍促進した。E1AF遺伝子は各種の細胞で発現しているが、ヒト乳がん細胞(MCF7)では検出されなかった。そこでMCF7細胞にE1AF遺伝子を導入し、アデノウイルスの増殖に及ぼす影響を調べた。しかしながら、ウイルス感染初期におけるE1A mRNA、および後期におけるウイルスDNAの両者について、MCF7とE1AF発現MCF7株で顕著な差は認められなかった。MCF7中の少量の内在性E1AFがE1A遺伝子の転写の開始に働き、ウイルス感染の起動をもたらした可能性がある。現在、転写活性化領域を除いたE1AF遺伝子を導入し、これがウイルス増殖を抑制する可能性について検討している。
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