研究概要 |
本研究の目的は、全ての造血細胞に必須の増殖因子であるKLを発現している細胞を簡単に検出できるモデルマウスを作成することで、造血組織の複雑な構築を明らかにするというものであった。同時に、造血幹細胞の検出を行うためのモノクローナル抗体を作成も計画した。 初年度に、KLゲノム遺伝子をクローニングし、ストローマ細胞特異的遺伝子発現を調節している部位を同定したが、この部位をLacZ遺伝子につないだコンストラクトを導入されたトランスジェニックマウスでは全く遺伝子発現がなかった。この反省をうけて、本年度は2kb、6kb、10kbと上流域を広く含むコンストラクトを導入したトランスジェニックマウスを作成して、造血組織を中心にマーカー遺伝子の発現が見られるかどうか検討した。結果は惨憺たるもので、2kbコンストラクトを導入されたマウスの内1系統だけが骨髄の骨芽細胞での発現を認めただけで、このマウスでも胎児肝には全く発現を認めなかった。毛根や腸管等のKL発現臓器では組織特異的発現が2kbコンストラクトを導入されたほとんどの系統で認められることから、造血組織での発現は基本的に異なる調節領域を利用していることが示唆された。更に、6kb、10kbと広く上流域を含むコンストラクトでは毛根、腸管等での発現も見られなくなることから、遺伝子発現を抑制する領域が存在することが示唆された。以上の結果は、KL遺伝子転写については重要であるものの、我々が当初目指したモデルマウス作成の観点からは、この戦略に大きな疑問を投げかけるものであった。従って、この戦略でのモデルマウス形成は断念せざるを得ないと決断している。 同時に試みていた造血幹細胞を認識するためのモノクローナル抗体作りについては、本年度はc-fmsに対する抗体とflk2に対する抗体を作成することができた。これら抗体を、既に作成したc-kit,IL-7Rに組み合わせる実験は初めたばかりであるが、この分野では予想以上の進歩であったと考えている。
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