研究概要 |
好中球は,白血球の大きな分画を占める血球細胞であり,骨髄に存在する多能性幹細胞から由来する。顆粒球コロニー刺激因子(G‐CSF)は,好中球前駆細胞に作用し,その増殖と分化を特異的に促進するサイトカインである。G‐CSFによる増殖や分化のシグナルは,好中球前駆細胞上に存在するG‐CSF受容体を介して細胞へ伝達される。私達はこれまでにG‐CSF,G‐CSF受容体の遺伝子を単離し,その構造を解析した。本研究では,これら単離したG‐CSF,G‐CSF受容体を用いて好中球の増殖と分化を再構成し,そのシグナル伝達系を解析することを目的とした。まず,G‐CSF受容体cDNAをマウスIL‐3依存骨髄性白血病細胞に導入したところ,この細胞はIL‐3非存在下,G‐CSFに依存して増殖した。この際,好中球酵素であるミエロペルオキシダーゼや白血球エラスターゼmRNAの発現も誘導され,G‐CSF受容体には骨髄性白血病細胞の増殖ばかりでなく,分化をも誘導する作用が存在することが示された。この分化誘導作用は,G‐CSF受容体に特異的であり,GM‐CSFやIL‐3受容体にはその作用はなく,むしろG‐CSFによる分化のシグナルを阻害した。ついでG‐CSF受容体に種々の変異を導入することにより,その増殖のシグナルは膜貫通領域直下の約75アミノ酸残基が,分化のシグナルはC-末端側約100アミノ酸の領域が必須であることが示された。ついで,G‐CSFによるタンパク質のチロシンリン酸化を検討したところ,G‐CSF刺激数分後から,G‐CSF受容体ばかりでなく,IL‐3受容体beta-鎖のチロシンリン酸化も観察された。このようなcross‐phosphorylationは,G‐CSFに特異的であり,IL‐3受容体を介してG‐CSF受容体がリン酸化されることはなかった。今後は,G‐CSFにより活性化されるチロシンキナーゼを同定するとともに,その活性化機構,及びその標的タンパク質を同定する必要があろう。
|