好中球は多能性幹細胞から、種々の中間段階の細胞を経て生成される。G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)は、この好中球の増殖と分化を調節する因子であり、その前駆細胞に作用し、種々の遺伝子発現を誘導させることにより、細胞を増殖、分化させる。本研究はG-CSF受容体cDNA、骨髄性白血病細胞株などを用いて、好中球の増殖、分化系を再構築することを目的とした。 単離したG-CSF受容体をマウス骨髄性白血病細胞FDC-P1やL-GMに導入したところ、両者ともG-CSFに応答し、増殖した。そして、G-CSF受容体とGH(growth hormone)受容体のキメラを発現する細胞の解析から、G-CSF受容体は2量体として機能することが示された。ところで、L-GM細胞では、G-CSFとの培養後、5日目から増殖能は低下し、核の分葉など好中球特異的な形態変化が観察されたのに対し、FDC-P1では長期にG-CSFにより増殖した。この結果は、G-CSF受容体は、好中球への増殖、分化両者のシグナルを伝達する能力があること、ある細胞ではその両者のシグナル系が備わっているが他の細胞では備わっていないことを示している。ついで、G-CSF受容体に種々の変異を導入し、増殖シグナルには、膜貫通領域より約80アミノ酸のみで十分であるのに対し、分化のシグナルには受容体の細胞質領域全体が必須であることを示した。ところで、好中球の分化過程では、種々の好中球特異的酵素の遺伝子発現が誘導される。そこで、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)に注目し、そのプロモーター領域を解析した。その結果、G-CSFに応答して、転写を誘導するエレメントが同定され、この領域に結合する二種の転写因子の存在が認められた。また、G-CSF受容体からのシグナル伝達系には種々のチロシンキナーゼの関与していることも示唆された。
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