低蛋白食は、慢性腎不全進展予防の治療手段として臨床応用されている。低蛋白食により、腎機能面及び組織面よりみた腎不全進展の遅延・蛋白尿の軽減などが観察されているが、その生化学的機構は明らかでない。最近、腎内内分泌環境の変化、特にレニン-アンジオテンシンシステムの増強及び腎内トロンボキサンの産生亢進が腎不全進展の一要因と考えられ、また、我々も、高蛋白質がホルモン結合性G-プロテイン(βγ-サブユニット)・膜結合性ホスホリパーゼA_2を介して腎血行動態を直接的に調節するエイコサノイド(PGE_2・6-keto PGF_1α・TxB_2)の産生能を変化させることを見い出している。従来、低蛋白食における予防効果は、慢性腎不全で検討されているが、急性腎不全では、その効果はほとんど評価されていない。それ故にこの研究では、標準(23%)・低(6%)蛋白食を摂取させたラットより、急性閉塞性腎症(BUO)・シャム手術(SOC)モデルを作製して、糸球体濾過率(GFR)・腎血しょう流量(RPF)から低蛋白食による腎機能温存効果を評価した。また、腎糸球体でのPGE_2・6-keto PGF_1α・TxB_2の産生量を決定すると共に、シクロオキシゲナーゼ(COX)活性・量を測定してその生化学的機構を明らかにした。標準食SOCでは、低蛋白食SOCに比しGFR・RPFが約50%まで上昇していた(Hyperfiltration)。BUOでは、それぞれのSOCに比し、標準食で約70%、低蛋白食で約30%のGFR・RPFの低下が認められた。低蛋白食は、BUOにおけるGFR・RPFの低下を軽減した。糸球体性エイコサノイド、特に血管拡張性PGE_2・6-keto PGF_1αは、標準食SOCで低蛋白SOCに比し、COX活性・量と共に有意に上昇していた。対照的に、標準食BUOに比し、低蛋白食BUOで、血管収縮性TxB_2は、COX活性・量と共に有意に低下していた。以上の結果より、低蛋白食は、COX活性を抑制することによりTxB_2の産生を阻害する結果、腎血行動態の悪化を軽減することが示唆される。
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