低蛋白食は、慢性腎不全の治療手段として臨床応用されている。低蛋白食により、腎機能面及び組織面よりみた腎不全の遅延・蛋白尿の軽減などが観察されているが、その生化学的機能は明らかでない。最近、腎内内分泌環境の変化、特にレニン-アンジオテンシンシステムの増強及び腎内トロンボキサンの産生亢進が腎不全進展の一要因と考えられている。昨年度の研究で、我々は、低蛋白が、急性閉塞性腎症の糸球体において、シクロオキシゲナーゼ活性の上昇を抑制し、腎血行動態の変更に直接関与するエイコサノイド(PGE_2・6-keto PGF_<1α>・TxB_2)の産生亢進を阻害することを見い出した。本年度は、この生化学的機構をさらに明らかにするために、高(40%)・低(6%)蛋白食を摂取させたラットの腎糸球体でのホスホリパーゼ(PL)A_2・PLC活性、G-プロテイン(G_<αs>・G_<αi2>・G_<αi3>・G_β)量を測定した。低蛋白食に比し高蛋白食は、PLA_2活性を著明に上昇させたがPLC活性に影響を与えなかった。また、高蛋白食では、低蛋白食に比しG_<αi2>・G_<αi3>の低下及びG_βの上昇が観察されたが、、高蛋白食と低蛋白食の間でG_<αs>の変化は認められなかった。G-プロテインβγ-サブユニットは、PLA_2の活性化に関与することが知られている。故に、高蛋白食は、G_βの上昇を介してPLA_2を活性化することが示唆される。逆に、低蛋白食は、G_βの上昇を阻害することによりPLA_2の活性化を抑制するように思われる。過去2年間の研究をまとめると、食事中の蛋白制限により各種G-プロテインの変化(特にG_β)→PLA_2の活性化→シクロオキシゲナーゼの活性化→エイコサノイド(特にTx)産生の亢進が抑制され、腎不全の進展の遅延がもたらされると考えられる。他の血管作動性物質が蛋白制限に対してどの程度影響を受けるのか評価することは、今後の課題である。
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