肝細胞内における酸素分圧低下による食品中抗酸化物質の作用変化に関する研究

1993 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 05454224
• 研究機関: 東京医科歯科大学
• 研究代表者: 高野 健人 東京医科歯科大学, 医学部, 教授 (80126234)
• 研究分担者: 中村 桂子 東京医科歯科大学, 医学部, 助手 (00211433) ; 本橋 豊 東京医科歯科大学, 医学部, 助教授 (10174351)
• キーワード: 肝細胞 / 酸素分圧 / 一酸化炭素 / 四塩化炭素 / 抗酸化物質

研究概要

環境化学物質暴露チャンバーを用いて、ラットに低濃度の一酸化炭素ガス(100ppm)を暴露し、肝臓への供給酸素分圧を低下させ、肝細胞障害作用を有する四塩化炭素を投与して、肝細胞障害を起こさせた。四塩化炭素投与前にビタミンEを前投与したラットと無処置のラットの二群を設定し、抗酸化剤の肝細胞障害への効果を調べた。さらに、生理的な肝細胞酸素分圧変化の要因として重要なラット肝血流量の日内変動の影響を考慮して、四塩化炭素の投与時刻を明期(肝血流量小)と暗期(肝血流量大)の二つとした。肝細胞障害の指標としてGPT、GOTなどの血清逸脱酵素、血中コレステロール濃度、中性脂肪濃度、過酸化脂質濃度などを測定するとともに、肝臓をはじめとする諸臓器の病理学的検索を行った。
一酸化炭素暴露群のラットでは、空気暴露群と比較して、GPTをはじめとして肝細胞障害の指標は高く、肝臓への酸素分圧の低下は肝細胞障害に相乗的に作用した。ビタミンEの前投与により、一酸化炭素暴露群・対照群とも肝細胞障害の程度ならびに血中過酸化脂質濃度は非投与の場合と比べて小さくなった。また、四塩化炭素による肝細胞障害の程度は投与時刻により異なり、明期投与時の方が暗期投与時より肝細胞障害の程度は大きかった。肝臓の組織学的所見は、血液生化学検査による肝細胞障害の程度に対応した変化を示した。これら現象は肝細胞内酸素分圧の変化に伴う肝薬物代謝酵素系および肝細胞内の抗酸化物質の変動が肝細胞障害の発現に関与することを示したものと考えられた。
また、肝細胞傷害時における肝細胞内還元型グルタチオンの役割を明らかにする目的で、Cd長期投与による肝細胞内還元型グルタチオン濃度の変化を調べたところ、Cd長期投与により還元型グルタチオンは有意に増加し、この増加は合成の促進によることが明らかとなった。
以上より、肝細胞内酸素分圧の低下により、環境化学物質による肝細胞障害の感受性は増大すること、食品中に含まれる抗酸化剤を前投与することによりこの肝細胞障害の程度を低下させることが可能である等の具体的結果が得られ、肝細胞内酸素分圧低下および抗酸化剤が肝細胞障害へ及ぼす複合影響が明らかとなった。

研究成果

• [文献書誌] ナリニー・スィーポン、本橋豊、中村桂子、高野健人: "栄養条件の相違によるラット潅流肝臓におけるエタノールのスチレン代謝影響の変化" 日本衛生学雑誌. 49 (印刷中). (1994)
• [文献書誌] 王廣増、高野健人、富田和久、仲田和代、中村桂子: "トリクロロエチレンとイソプロピルアルコールの肝内代謝における相互作用-ラット潅流肝臓における実験-" 日本衛生学雑誌. 48. 1000-1005 (1993)
• [文献書誌] Y.Motohashi,Y.Miyazaki and T.Takano: "Assessment of Behavioral Effects of Tetrachloroethylene Using a Set of Time-Series Analyses" Neurotoxicology and Teratology. 15. 3-10 (1993)
• [文献書誌] N.Sripaung,Y.Motohashi,K.Nakata and T.Takano: "Combined Effects of Ethanol and Nutritional Condition on Styrene Metabolism in The Isolated Perfused Rat Liver" Abstracts of Second Asia-Pacific Symposium on Environmental and Occupational Health-Toxicological Studies-. 68 (1993)
• [文献書誌] Y.Motohashi,Y.Miyazaki and T.Takano: "Circadian-Pase Dependent Effects of Tetrachloroethylene on Locomotor Activity Rhythm in the Rat" Abstracts of Second Asia-Pacific Symposium on Environmental and Occupational Health-Toxicological Studies-. 70 (1993)
• [文献書誌] J.Liu,C.Sato,T.Takano and F.Marumo: "Characterization of Vasopress in-Mediated GSH efflux from HEP G2 Cells:Significance of Protein Kinase C" Life Science. 52. 1217-1223 (1993)
• [文献書誌] N.Sripaung,Y.Motohashi,K.Nakata and T.Takano: "Proceedings of Second Asia-Pacific Symposium on Environmental and Occupational Health-Toxicological Studies-" International Center for Medical Research Kobe University School of Medicine and National University of Singapore (印刷中), (1994)
• [文献書誌] Y.Motohashi,Y.Miyazaki and T.Takano: "Proceedings of Second Asia-Pacific Symposium on Environmental and Occupational Health-Toxicological Studies-" International Center for Medical Research Kobe University School of Medicine and National University of Singapore (印刷中), (1994)