研究概要 |
性犯罪事件において精液およびその斑痕は容疑者特定のために欠くことのできない資料である。しかし、血液とちがって、現在のところ、精液に適用できる個人識別マーカーの種類は極めて少ない。 我々は、遺伝子頻度・耐性度・含有量・簡便なうえ高感度な型判定法の存在などから、デオキシリボヌクレアーゼ(DNase I)、トランスフェリン(TF)、α-1-アンチトリプシン(PI)、フコシダーゼ(FUCA1)などの遺伝形質がが極めて優秀な精液の個別識別マーカーであることを明らかにした。とくに進展のあったDNase I型の研究成果を列挙すると、 1.ヒトDNase Iの遺伝的多型を発見し、4個の対立遺伝子DNASE1^*1,^*2,^*3および^*4から構成されていることを明らかにした。この多型は日本人のみならず、他の黄色人種、白色人種、黒色人種にも存在していることも明らからにした。 2.DNase Iの遺伝的多型は精液、尿、血清、唾液などの体液のみならず、膵蔵、腎臓、肝臓などの臓器にも発現していることを見出した。 3.DNase Iのgenomic DNAの全構造(全ヌクレオチド配列)を解明し、DNase I遺伝子の全長は約3.2kbであり、9個のエクソンから構成されていることを明らかにした。 4.DNase Iの遺伝子座は第16番染色体の短腕のテロメア近傍(16p13.3)に位置していることをつきとめた。 5.DNase Iの遺伝的多型はいずれも翻訳部分におけるヌクレオチド置換に起因するアミノ酸置換によって生じていることを明らかにした。また、mismatched PCR amplification法やamplification refractory mutation system(ARMS)を利用してDNAサンプルからのDNase I型判定法を新しく開発した。
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