研究概要 |
ラミニンは分子量約85-100万の糖蛋白で、基底膜の主要な構成成分の一つである。またラミニンはその分子上の様々なレセプターを介して細胞や他の結合組織成分(コラーゲン、プロテオグリカンなど)と結合し、細胞の増殖、移動、接着、癌の転移浸潤に重要な役割を果たしていると考えられる。我々は、67kDa高親和性ラミニンレセプター(LR)の前駆体蛋白である40kDaラミニン結合蛋白(LBP)のcDNAをヒト肺癌細胞よりクローニングし、またそのmRNAレベルの発現が肺癌の生物学的悪性度に相関することを見いだしている。 本研究ではLR及びLBPに対する特異性の高い抗体を得る目的で、まずクローニングしたcDNAをプラスミドベクターに組み込み、大腸菌に発現させて組み替え体LBPを得た。組み替え体LBPを家兎に免疫して得られた抗LBP多クローン抗体は、ヒト線維肉腫細胞HT1080を用いたウェスタンブロットの結果、LBPのほかに分子量約67,000と32,000の蛋白と反応した。以上の結果より、LBPは必ずしもLRの前駆体蛋白として細胞膜に組み込まれるのではなく細胞質内に留まって何らかの機能をしている可能性が示唆された。一方、LBPのcDNAは全長でも約1kbであり、67kDaのLRを全てコードするには短すぎることから、LBPはLRの一ドメインにすぎず未知の遺伝子産物との会合によってLRが完成すると想定されている。しかし、P4抗体を用いたウエスタンブロットで還元下においても複数の蛋白との反応が認められたことから、LRとLPBとはアミノ酸配列に高いホモロジーを有する別個の蛋白である可能性も示唆された。従って、さらに次のような点が今後の課題と考えられる。 ●分子量約67,000のバンドがLRと同一か否かを確認すること。 ●癌組織の免疫染色により細胞内のLRとLBPの局在を解明すること。 ●抗体による細胞への影響(特に癌細胞の接着能や転移能への影響)を観察し、LR、LBPの役割を解明すること。 ●同一遺伝子よりalternative splicingの結果生じた蛋白同士の可能性を検討する目的で、LR、LBPの遺伝子を同定し両者の異同を明らかにすること。
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