研究概要 |
多発性硬化症(以下、MS)は神経症状が寛解・増悪する神経難病の代表的な疾患で、その成因としては、ウイルス説、免疫異常、環境要因(外因)、遺伝的素因(遺伝因子)などが提唱されている。今回、MSの成因解明の糸口を得るために、接着因子、サイトカインを含めたT細胞の特性を検討した。 Macrophage inflammatory protein(MIP)-1α、MIP-1β,RANTESはβケモカインと称され、炎症病巣部で活性化マクロファージより産生され、T細胞の走化性を誘導するとされる。MS患者の脳脊髄液中のMIP-1α測定、免疫組織学的検討を行った。R & D社製ELISAキットを用い、再発寛解型MS18例(急性期13例、安定期5例)、および非炎症性神経疾患患者8例を対照として、髄液中MIP-1αを測定した。MS急性期には4.4±5pg/min.、安定期1.9±0.9pg/min.、対照群0.3±0.7pg/min.と、MS急性期、安定期とも有意な上昇がみられた(p=0.0002、p=0.007)。また、急性期に死亡したMS3例の剖検脳の抗MIP-1α、MIP-1β、RANTES抗体による免疫染色を行った。急性期病巣ではMIP-1αがアストロサイトに陽性、MIP-1β、RANTESはマクロファージおよびアストロサイトに陽性を示した。これらのことから、MS急性期病巣においてβケモカインが病巣内へのリンパ球浸潤を誘導する役割を果たしていることが示唆された。 一方、ヒトにおいて最も多量に存在する中枢ミエリン蛋白、proteolipid protein(PLP)に対する免疫反応を8207個のT cell lineについての共同研究の結果、MS39例、対照10例の計49例より8027個のT cell lineを確立し、PLP reactive T cellの頻度の検討では、MSと対照とでは差異はなく、またimmunodominant PLP epitopeの919個のPLP specific lineでの反応性の検討から、PLPの初回刺激されるimmunodominant epitopeを確認し、蛋白抗原がin vitroで抗原提示細胞によりimmunodominant epitopeとして認識され、その後細胞外の蛋白分解酵素の処理を受けた後にcryptic epitopeと認識されることが明らかにされた。 これらのことから、MSの成因、病態にはT Cell受容体の活性化の機構の解明を継続的に行っていくことが重要であり、今後の研究の方向性が示唆された。
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