前年度に引き続き、痙縮症状の発現機構を筋伸張反射および相反性神経支配に関わる脊髄内神経回路網に即して解析し、随意運動実行中に現れる運動障害にたいするこれらの回路網の関わり方を検討した。被験者に反応時間試験をベースとするステップ型視標追跡法により随意性急速足関節運動課題を設定した。これにH反射法を組み込んで、運動開始前後における前脛骨筋およびヒラメ筋を支配する運動ニューロンプール、そして前脛骨筋からヒラメ筋に向かうIa抑制回路の興奮性変化の時間経過を調べた。今年度の成果は以下の通りである。 1)痙縮患者で観られた足背屈運動時(主動筋=前脛骨筋)の前脛骨筋からヒラメ筋へのIa抑制の活動異常について、前年度の結果を追試・確認した(論文、投稿準備中)。 2)次のステップとして、以下の研究を先ず健康人を対象に行った。 a)試験課題を逆転させた場合(足底屈運動、主動筋=ヒラメ筋)の前脛骨筋からヒラメ筋運動ニューロンへのIa抑制の活動は抑制された。この機序を足底屈運動に伴うヒラメ筋から前脛骨筋へのIa抑制活動の増強による相互抑制の結果と考察した。 b)前脛骨筋とヒラメ筋を同時に収縮させた時の前脛骨筋筋紡錘単位発射活動をmicro-neurogramにより調べた。発射活動は単純な足背屈運動時よりも増強した。この原因として拮抗筋同時収縮時にはγ運動系活動が一層高まっている可能性を指摘した。 これらの現象が「痙縮」によりどのような影響を受けるかを今後の課題としたい。 3)平行して、「痙縮症状」に関する臨床神経生理学的研究のこれまでの成果と残された問題点および今後の研究の動向のレビューを行い、現行の痙縮治療法の理論的根拠についてもまとめた。
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