心臓は生涯休むこと無く収縮を繰り返し、その間に消費されるエネルギーは莫大な量に達する。健常な個体においては、心臓自身のエネルギー効率はほぼ最大に維持されていることが知られている。しかしその機序は明かでない。そこで我々は自律神経による循環調節に注目し、これらの神経系が心臓の収縮効率にどのような影響を及ぼすか検討した。 初年時は交感神経の心臓の収縮効率に及ぼす作用を検討した。雑種成犬を麻酔し頸動脈洞を単離した。迷走神経は切断した。頸動脈洞にサーボポンプを接続し、圧反射を介しての交感神経の心臓作用を解析した。頸動脈洞をガウス白色雑音で変化させ、各心拍毎の収縮末期エラスタンス(Ees)および実効動脈エラスタンス(Ea)を推定した。頸動脈洞圧を入力、EesおよびEaを出力とみなし、その間の伝達特性を評価した。その結果、両者の伝達特性は極めて類似していることが示された。このことより、交感神経を介した循環調節は心臓の収縮効率を高く保つことが示された。 2年次は迷走神経の収縮効率に及ぼす作用を検討した。家兎を麻酔し迷走神経を切断した。交感神経を介しての反射を取り除くために、両側の星状神経節を切断した。迷走神経の遠位端を不規則に電気刺激し、その時の大動脈圧、左室圧および心室容積を記録した。一心拍毎に左室のEesおよびEaを求め、迷走神経刺激からEesおよびEaまでの伝達特性を求めた。両者の伝達特性は極めて類似しており、心室駆出のエネルギー効率は亜最大値に保たれることが示された。 心収縮の効率を維持するためには心室の収縮末期エラスタンス、血管抵抗および心拍数を整合させながら調節する必要がある。交感神経あるいは迷走神経を介した循環調節の何れも、これらの3者を合理的に変化させていることが明らかになった。
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