研究概要 |
本研究では,EBV初感染伝染性単核症(IM)を一つのモデルとして活性化に伴うT細胞の生理的細胞死の背景を検討,以下の成績が得られた. 1)IM活性化T細胞は,健康者メモリーT細胞とCD45RO抗原やアポトーシス媒介性細胞表面分子のFas抗原発現は大差ないが,健康者メモリーT細胞と異なりIM活性化T細胞は試験官内で容易に著明なアポトーシスが起こす.T細胞のアポトーシス誘導には細胞の内的条件が重要と考えられ,T細胞のアポトーシスに関わる新たな細胞膜分子を同定する意味で,IM患者リンパ球を免疫原に単クローン抗体IMN3.1抗体を得た. 2)アポトーシス抑制遺伝子産物のBcl-2は,健康者メモリーT細胞で強く発現するが,IM活性化T細胞では欠如する.Bcl-2発現の欠損ないし減弱は,顆粒球や単球のような半減期の短い白血球でも観察される.顆粒球や単球ではFas抗原の構成的発現がみられ,Bcl-2微弱発現に対応して顆粒球や単球が抗Fas抗体によりアポトーシスが促進された.これらの結果は,Bcl-2発現の強弱がFas/リガンドに対する細胞の感受性に一部関係すること,Fas/リガンド系が免疫反応のみならず炎症に関わる血液系細胞をも標的として作用すること示した. 3)癌遺伝子産物のp53は細胞のアポトーシス誘導を促進する作用があり,点突然変異により生じた変異p53はその作用がなく,癌細胞の生成や不死化を導く.伝染性単核症活性化T細胞ではp53発現はないが,正常者リンパ球を放射線照射によりアポトーシス死を誘導した場合にp53発現が誘導される.放射線照射性アポトーシスに付随したp53発現が,CD4^+T細胞,CD8^+T細胞やB細胞でみられるのに反して,NK細胞やγδ型のT細胞抗原受容体をもつT細胞ではp53発現を伴わないことを示し,リンパ球のアポトーシス誘導に関わる細胞内条件としてのp53の役割には多様性のあることを明かにした.
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