皮膚加齢メカニズムは不明であるが、紫外線という環境要因によりもたらされる光老化は、動物モデルによる再現が可能であり、またフリーラジカル説があてはまりやすいなど解明の手がかりが得られやすい(文献1)。今回の研究デハ、ヘアレスマウスと用いた動物モデルにより、光老化メカニズムの細胞生物学的ならびに生化学的解明と抗酸化的制御の可能性を検討することを目的とした。その結果、まず、従来急性紫外線傷害モデルでは、著明な低下を示した皮膚SOD活性などの抗酸化能が、少量紫外線の長期反復照射ではむしろ誘導されることが判明した。この結果からは、光老化過程において、紫外線が酸素ストレスとなること、生体はその酸素ストレスに対して、抗酸化能を誘導しうること、将来、光酸素ストレスに対して、抗酸化剤投与の適応がありうることなどが示唆された。皮膚GAG測定実験からは、従来組織化学的な手法によってのみ報告されていた真皮ムコ多糖の量的および組成変化の生化学的手法による精細な変化が明らかになった。これらの変化は、紫外線の波長により異なり、また組成比も大きく動くことを示唆しており、真皮ムコ多糖の動態が光老徴に反映される点で興味深い。 Asc2-P添加による皮膚線維芽細胞三次元培養系の実験からは、この手法により、真皮を模倣するような線維芽細胞の重層と間質成分の産生がみられ、GAG二糖分析では、単層培養系に比べるとはるかに真皮に近い構築がin vitroで得られることが明らかとなった。この成果からは、光老化モデルマウスより採取した皮膚線維芽細胞をこの系で培養することにより、光老化に特有なコラーゲンやGAGの変化を細胞生物学的に解明することが可能となると思われる。さらに、in vitroで新たな紫外線照射を行うことで、その動態をさらに明らかにすることができよう。 現在、コラーゲンの架橋形成、不溶性コラーゲンの変化、コラゲナーゼ活性の変化などの解析が可能であるので、この系を用いて光老化の細胞生物学、生化学的究明が可能となりつつある。最終的に抗酸化剤の投与、内因性抗酸化能の賦活などによる光老化制御の検討を同システムを用いて行う予定である。 これらの研究を通して、光老化と固有の老化のメカニズムの差異を明確にし、抗酸化的対応による光老化の制御の展望を拓くことが可能で、高齢化社会を迎えるわが国の皮膚科学研究の発展に大きく寄与するものと思われる。
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