研究概要 |
表皮細胞の接着構造は細胞間のdesmosome(DS)と細胞基質間のhemidesmosome(HD)が主体である。今回の研究対象であるHDの構成分子としては、とくに180KD類天疱瘡抗原(BPA),230KB‐BPAおよび各種のintegrinが知られている。本研究では、これらの接着構造分子の形成、保持、解離の制御の分子細胞生物学的機序と各種水疱症の発症病理学的機序を解明を相補的に明らかにすることである。 昨年度は、まず180KD‐BPA,230KD‐BPA,α6β4integrinに対するモノクローナル抗体を用いて,培養表皮細胞において類天疱瘡抗体がこれらの分子の集合分散に与える影響を検討した。その結果、180KD‐BPAは細胞側面の細胞膜にケラチン線維とは結合しないでプールされていること、及び、これに類天疱瘡抗体が結合し、免疫複合体となり細胞内に取り込まれ、HDの分子凝集が阻害されることが明らかとなった(J Dermatol 21:838,1994,Dermatology 189,suppl 1:46,1994に発表)。さらに、フォルボールエステル(TPA)によってプロテインキナーゼCを活性化した時の、これらの分子のリン酸化を検討したところ、180KD‐BPAはリン酸化されたが、230KD‐BPAはされなかった(Electron Microscopy in Dermatology:Basic and Clinical Research pp111‐120,1994,Elsevier Science発表)が、これに関して本年度はこのリン酸化によって、180KD‐BPAの分子量が約1000、SDS電気泳動上、増加することが判明した(未発表)。さらに、本年度は抗体が細胞膜抗原に結合した後の細胞内へのシグナル伝達の様態を検討した。天疱瘡抗体がDSのデスモグレインIII(DSIII)に結合すると、ホスホリパーゼCの活性化、細胞内IP_3、Ca^<2+>の一過性の増加が誘導されたが、類天疱瘡抗体と180KD‐BPAの反応ではされなかった。これらは細胞膜貫通性分子である180KD‐BPAとDSIIIの細胞内シグナル伝達における機能の差と、両水疱症の抗体結合後の反応機序の質的な違いを示唆している(J Invest Dermatol 104:33.1995に発表)。
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