我々はこれまでに、Gastric Inhibitory Polypeptide遺伝子(GIP)、肝型糖輸送担体遺伝子(GLUT2)、ソマトスタチン受容体遺伝子(SSTR2)等を単離してきた。今年度の研究においてヒトGIP、ヒトGLUT2、マウスSSTR2の三つの遺伝子についてそれぞれの転写調節領域を単離し、これらの欠失変異をハムスターβ細胞株HIT-T15に導入し、Chloramphenicol Acetyl Transferase(CAT)アッセイおよびルシフェラーゼ・アッセイを行った。ヒトGIP遺伝子では転写開始点の上流に2つのcyclic AMP response element(CRE)が存在し、-180〜+14の配列が転写活性に必須であることを既に明らかにしているが、今回、その転写活性が細胞外にカルシウムイオンを添加することにより亢進し、高ブドウ糖濃度下でこの現象がさらに増強すること、また、2つのCREに点変異を導入することによりカルシウムによる転写活性の誘導が消失するので、カルシウムがCREを介して転写活性を調節することを明らかにした。次に、ヒトGLUT2遺伝子では種々の転写調節領域の欠失変異を作製し、 HIT-T15細胞に導入して転写活性を検討した。上流側からTakedaらが報告している転写開始点を越えて欠失させた変異でも転写活性を認め、+126〜+308の範囲が特に重要であることを明らかにした。これらの欠失変異の転写活性をラット初代培養肝細胞でも検討したが、HIT-T15細胞と同様に+126〜+308の範囲が必須であり、肝と膵β細胞は非常に類似した転写調節を行なっていると推定される。また、HIT-T15細胞でのCATアッセイおよびルシフェラーゼ・アッセイの検討により+29〜+398の塩基配列にブドウ糖による転写活性の誘導を認めた。この範囲の突然変異の有無をヒト・ゲノムで検索したが、今回SSCP法で検索した症例では変異は認められなかった。マウスSSTR2遺伝子では著明なブドウ糖による転写誘導は認めなかったが、欠失変異の解析から複数の転写開始点が存在することが示唆された。
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