研究概要 |
肝細胞癌は正常肝細胞と異なりエンドセリン-1(ET-1)を産生している。本年度は,肝細胞癌で産生されたET-1がautocrineあるいはparacrine的な作用で自らの増殖を促進している可能性を調べるため,(1)肝細胞癌にはET-1受容体が存在するか、(2)ET-1拮抗薬は肝細胞癌の増殖を抑制するかの2点について検討した。 (1)肝細胞癌のET-1受容体:ヒト肝細胞癌株(Huh-7,Mahlave,Alexander,Hep G2,Hep 3B,Sk-Hep-1)を対象に,ヒトET_AおよびET_B受容体のプローブを用いてnorthern blot analysisを行った。その結果、少なくとも2つの肝細胞癌株(Mahlave,Hep G2)にET_B受容体mRNAが検出された。ET_A受容体の発現はいずれの肝細胞癌株にも認められなかった。 (2)Huh-7については,遊離細胞と^<125>I標識ET-1との結合実験を行ってみると,肝細胞癌株Huh-7には高親和性(Kd=2.7×10^<-10>M)のET-1結合部位が存在した。 (3)ET-1拮抗薬の肝細胞癌増殖抑制効果:ヒト肝細胞癌株(Huh-7,Mahlave)をヌードマウスに移植した。実験群はET-1拮抗薬bosentan(Hoffmann-La Roche)を混じた飼料で,対照群は薬剤を含まない飼料で飼育し,腫瘍の大きさと実験終了時の腫瘍重量を両群で比較した。bosentan(10mg/kg/日)は,肝細胞癌の増殖を明らかに抑制した。効果は投与開始後既に4日目で認められ,実験終了時まで存続した。また,実験終了時に秤量した実験群の腫瘍重量も,対照群に比べて有意の低値を示した。 以上の実験成績から,次の結論が得られた。(1)ヒトの肝細胞癌にはET_B受容体が存在する。(2)その増殖はET-1に依存している。(3)ET-1拮抗薬は肝細胞癌増殖を抑制することから,治療薬として有望である。
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