研究概要 |
エンドセリン-1(ET-1)が肝細胞癌の成長因子であるという仮説を証明するため,ヒト肝細胞癌株細胞を対象に次の検討を行った。Northern blot-tingを行うと,少なくとも複数の肝細胞癌株細胞にpreproET-1のmRNAが証明された。ET-1モノクローナル抗体による免疫組織化学では,いずれの細胞株にET-1の免疫活性が認められ,正常肝細胞と明らかな差異を示した。培養細胞抽出液及び培養液を特異的なEIAで測定した結果,いずれの細胞株でもET-1が産生・分泌されていることが明らかになった。肝細胞癌の増殖に及ぼすET-1の作用を知るため,肝細胞癌株細胞(Mahlavu,Alexander)の増殖能をclonogenic assayで調べると,ET-1の添加が用量依存的に増殖を促進すること,ET-1受容体拮抗薬やET-1に対するモノクローナル抗体がその作用をブロックするばかりでなく,単独で肝細胞癌の増殖も抑制することを明らかにした。次に,ヒトET_AおよびET_B受容体のプローブを用いたnorthern blottingを行うと,少なくとも2つの肝細胞癌株(Mahlave,Hep G2)にET_B受容体mRNAが検出された。一方,ET_A受容体の発現はいずれの肝細胞癌株にも認められなかった。遊離肝細胞癌株細胞と^<125>I標識ET-1との結合実験では,Huh-7には高親和性(Kd=2.7 x10^<-10>M)のET-1結合部位が存在することが明らかになった。ET-1拮抗薬の肝細胞癌増殖抑制効果を調べるため,肝細胞癌株(Huh-7,Mahlave)をヌードマウスに移植し,実験群はET-1拮抗薬bosentanを混じた飼料で飼育した。Bosentan(10mg/kg/日)は肝細胞癌の増殖を明らかに抑制し,効果は投与開始後既に4日目で認められ,実験終了時まで存続した。実験終了時に秤量した実験群の腫瘍重量も対照群に比べて有意の低値を示した。以上の成績から,(1)ヒトの肝細胞癌はET-1を産生・分泌している,(2)ヒトの肝細胞癌にはET_B受容体が存在し,その増殖はET-1に依存している,(3)ET-1拮抗薬は肝細胞癌増殖を抑制することから治療薬として有望であることが結論された。
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